政党支持・政策志向に関する自主世論調査(2018年)

ジャッグジャパン株式会社は8月23日から30日にかけて、全国の有権者を対象にインターネットによる政党支持・政策志向に関する世論調査を行った。概要は以下の通りである。

【調査対象】民間調査会社のアンケートモニター
【調査方法】インターネット調査
【調査時期】2018年8月23日~8月30日
【回答者数】1204名
【調査対象】18歳以上の全国の男女
【調査機関】ジャッグジャパン株式会社(投票行動分析フォーラム)

 

回答者の分布については、地域別には表1、職業別としては表2、男女年齢別には表3の通りである。モニター構成比が実際の人口構成比に近くなるように設定した。なお、モニター全体の平均年齢は51.8歳であり、有権者の人口平均年齢が約53歳である。(注1)

表1

表2

表3

  1. 政党支持率

まず、最初に各政党に対する支持率を比較してみよう。下記グラフ1は、モニター全体の各政党に対する支持率、選挙があれば必ず投票するまたはどちらかといえば投票すると回答した者(767名。以下、投票によく行く層と呼ぶ)における各政党に対する支持率をそれぞれ表したものである。

グラフ1

各党の支持率に関しては、公明党の支持率が低めに出ているものの、おおよそマスコミ各社の世論調査と同じような傾向を示している。しかしながら、投票によく行く層に関してみれば、無党派が減りその代わりに自民党と立憲民主党の支持率が高くなっている。31.6%vs13.2%という数字が両党の現時点での実力を示していると言ってよかろう。

  1. 各政党支持者の政策志向

次に各党支持者の政策志向を見てみよう。以下の結果は表4に記した10の質問に対する各政党支持者の政策志向を平均スコア化したものである。

表4

表5

具体的には、表4の質問に対して表5の様に回答者が答えたものに対して、それぞれ上から5,4,3,2,1と点数化したものを政党ごとに支持者の平均スコアをまとめ、レーダーチャートで下記の様に示した。

グラフ2

 

グラフ2は、モニター全体と無党派層も含む各党支持者に対して各質問への回答の平均値をレーダーチャートにしたものである。一見しただけで、各党支持者の政策志向に違いがあることが分かる。

同じような政策志向を持つ政党をまとめて表した方がより分かりやすいので、グラフ2の政党軸と政策スコア軸を入れ替えて、支持政党を4種類に分けて表示したのがグラフ3-6である。グラフ3は有権者全体と無党派層の政策志向、グラフ4は保守系政党支持者の政策志向、グラフ5はリベラル系政党支持者の政策志向、グラフ6は中道系政党支持者の政策志向をそれぞれ表している。

グラフ3

 

グラフ3を見ると、全体の傾向と無党派層の政策志向が極めて近いことがわかる。全体としてわからない(どちらでもない)を示す「3」に各質問項目委の回答平均値が近いものの、脱原発にやや肯定的な傾向があることがわかる。

グラフ4

次に自民・維新・希望の保守系3政党の支持者の政策傾向を比べてみよう。グラフ4を見ると、自民党支持者と日本維新の会の支持者は、(1)防衛・歴史認識に関してタカ派的傾向、(2)個人の権利より治安を重視する傾向、(3)ダムの建設推進に積極的、(4)脱原発には積極的でない、という点で全体から乖離している。一方で、希望の党支持者は、脱原発と野党共闘推進には好意的であるという違いがある。これは、小池百合子東京都知事が創設者であった旧希望の党が、2017年総選挙の際に政権交代と脱原発を標榜していたことが大きく作用していると思われる。

グラフ5

一方でグラフ5からは、立民・共産・社民・自由のリベラル系政党の支持者は全体に比べて、(1)防衛・歴史認識に関してハト派的傾向、(2)治安より個人の権利を重視する傾向、(3)脱原発に熱心、(4)格差の是正にやや熱心、(5)「野党共闘」の推進に熱心、という点で全体より乖離しており、これが4党の一致点かつ特徴であると言える。一方で、立憲民主党の枝野代表自身が民主党政権時代に政権運営の中心人物の一人だったこともあり、長期的な消費増税に関して支持者はあまり反対していないことが分かる。

グラフ6

最後に、グラフ6から、中道政党を標榜している公明党および国民民主党の支持者の政策志向は全体または無党派層に近く、正に中道傾向にあることがわかる。しかしながら、有権者全体や無党派層の平均に政策を合わせれば支持が拡大するわけではない。無党派層は回答者全体の40%以上、投票に行く層でも20%以上近くを占めるが、回答結果からは彼らが多くの政策分野でこだわりが強くないことがわかる。しかしながら、脱原発問題など国民の関心が高くかつ二者択一的な分野では、中途半端な態度は党のイメージ悪化につながることは国民民主党の支持率の低迷を見ても理解できるであろう。

  1. 野党共闘

表4における4番目の質問である「野党共闘への支持」については、各都道府県知事選挙や次期衆参両議院選挙の結果を占う上でも非常に重要なファクターの一つになっているのでもう少し細かく見ていこう。

表6:野党共闘への支持

表6は、野党共闘に対する回答の分布を示したものである。なお、ある政党の支持者の野党共闘に対する賛成度は以下のように定義した。

この値が正になると、支持者全体の傾向として野党共闘に前向きになり、負になると後ろ向きになる。この値に関しては、当然のように与党および与党に近い日本維新の会で値がマイナスになり、リベラル系野党各党において正の値を取り、しかも高い値になっている。ただし、全体および無党派層の値はゼロに近く、彼らが全体として中立的であることが分かる。

  1. 各党支持者の実像:立憲民主党はシルバー民主主義の政党?

各政党支持者の分布について、年齢・地域別・年収・職業・性別・未既婚・子供の有無に分けて見てみよう。サンプル数の少なさから小政党の分析は省くが、際立つのが野党第一党である立憲民主党の支持がリタイア層といえる高齢者の既婚の男性に偏りがちであり、さらに地域的にも東日本に支持が偏りがちであることである。野党第二党の日本共産党も同様の傾向があり、これらを是正しない限り政権交代は厳しいと言わざるを得ない。では、以下実際に細かく見ていくことにしよう。

表7:各党支持者の年齢別分布

表7は各党支持者の年齢別分布を示している。各政党の年齢別支持の特色を見るために、以下の値を定義した。

この値が正で高くなるほど、当該年齢層での相対的支持が強くなり、負の値で低くなるほど、相対的支持が弱くなることを示している。さらに表における赤字は上記の乖離度が0.2以上、青字は上記乖離度が―0.2以下であることを示している。また、赤く塗られている部分は最頻値がある年齢層、黄色く塗られている部分は中位値がある年齢層を示している(中位値とは数が少ない方から数えて中央に位置する値である)。

年齢に関しては、自民党支持者の年齢別分布がモニター全体のそれとあまり乖離していないことが分か-る。一方で、立憲民主党は70歳以上が最頻値で46人と支持者全体の40%近くを占め、55歳未満の支持者の割合は全てモニター全体の人口比率を下回っている。平均年齢は60.6歳、中位年齢層も65歳~69歳と非常に高い。立憲民主党ほどではないが日本共産党も日本維新の会も同じ傾向がある。また、サンプル数が少ないものの社会民主党は支持者の45%以上が70歳以上である。以上から見ると、護憲(特に九条維持)の傾向が強いリベラル系野党は、平和憲法に長く親しんできた高齢者層の支持に支えられていると言える。一方で、改憲を掲げる保守政党の日本維新の会の支持層が高かったのは予想外であった。支持者の数自体が42と多くなかったのと、(レポートには記載していなかったが)一年前の調査では同党の支持者の平均年齢が50.6歳であったので(注2)、他の調査機関の最近の世論調査も同じ傾向を示しているのかが気になるところである。

表8:各党支持者の地域別分布

表8は各党支持者の地域別分布を示している。各政党の地域別支持の特色を見るために、以下の値を定義した。

この値が正で高くなるほど、当該地域での相対的支持が強くなり、負の値で低くなるほど、相対的支持が弱くなることを示している。さらに表における赤字は上記の乖離度が0.2以上、青字は上記乖離度が―0.2以下であることを示している。また、赤く塗られている部分は最頻値がある地域である。

地域的に見ると、自民党は東日本よりも西日本で支持率が高い傾向がある。一方で、立憲民主党の支持は特に関東地方で多く、九州地方を除く西日本では弱いことが分かる。特に、旧民主党が愛知県で強かったにもかかわらず中部地方での支持が弱いのは、旧民主党を支持していた旧同盟系の労組が国民民主党支持に回ったことが大きく影響していると思われる。しかしながら、国民民主党の支持が中部地方で強いわけではないことにも留意すべきである。公明党に関しては北海道で比較的強い以外は西高東低の傾向にある。日本共産党に関しては立憲民主党と同様に東高西低傾向があるが、近畿地方での支持は比較的強いと言える。日本維新の会については、大阪府のある近畿地方での支持が他地域よりも強いのは当然であるが、関東地方でもそれなりの支持者がいることは留意すべきである。無党派層については、四国地方で乖離値が一番高かった。この地域においては、今回のアンケートでは野党支持者がゼロであり、非与党支持者の多くが無党派層に回ったことが伺える。なお、国民民主党に関しては、どの地域でも支持率が惨憺たる値であるが、玉木代表の選挙区がある香川県でも支持者ゼロであったことを言及しておく。

表9:各党支持者の世帯年収別分布

 

表9は各党支持者の世帯年収別分布を示している。各政党の支持者の年収別の特色を見るために、以下の値を定義した。

この値が正で高くなるほど、当該所得階層での相対的支持が強くなり、負の値で低くなるほど、相対的支持が弱くなることを示している。さらに表における赤字は上記の乖離度が0.2以上、青字は上記乖離度が―0.2以下であることを示している。また、赤く塗られている部分は最頻値がある地域である。

各党支持者の収入別分布について分析してみよう。最頻値が単一であり、最頻値から離れるにしたがって度数が減少していくことは分布の単峰性と呼ばれ、年収分布では通常それが成り立っている。実際に本アンケートでもモニター全体では単峰性が成り立っている(注3)。

支持者が多い自民党・立憲民主党に関しては単峰性が成立し、400万円台が最頻値、500万円台が中位値となっている。一方で、公明党・日本共産党・日本維新の会に関しては400万円台が中位値と自民・立民より低いことが分かる。ここで注目すべきは立憲民主党であり、表7から同党支持者の過半数がリタイア世代であるにもかかわらず、表9より同党の支持者の中位年収がモニター全体のそれよりも高いということは、当該年齢層の支持者の多くが就業時に年収が高かったことが伺われる。

なお、本調査においては、このほか職業別などの調査、Big5を用いた性格特性検査との相関などについても調査を行った。これらの調査結果について詳細をお知りになりたい方は、ジャッグジャパン株式会社まで問い合わせいただきたい。

  1. まとめ

今回の調査からは、民進党が分裂していなかった一年前の調査結果に比べて、自民党に代表される保守政党の支持者とリベラル系4野党の支持者間で政策志向の違いがより明確になった印象がある。支持者の政策志向は当然のように政党の政策に反映されるので、与野党間の違いが明確化することは投票における選択肢の違いが明確化するという意味で望ましいと言える。一方で、野党に関しては、第一党である立憲民主党の支持率が自民党のそれと比べて三分の一であることに代表されるように、依然として支持が低い。さらに第二党である共産党も含めて支持者の年齢別・地域別傾向に偏りが見られる。特に立憲民主党に関しては、「首都圏に住み、朝日新聞を購読しているリタイア世代の比較的富裕な男性」という典型的な支持者像が目に浮かぶ。しかしながら、このような偏りが続く限りは政権再交代の実現は厳しく、支持層を広げる努力をすべきであろう。

(1) 「選挙で若者が大損する」—投票者の平均年齢は57歳(AERAより), Hayato Ikeda, 2012/11/30, http://blogos.com/article/51386/.
(2) 有権者が望んでいる政策は?最新の独自世論調査の結果から, 鈴木しんじ, 2017/08/23, http://blogos.com/article/241998/.
(3)  収入1200万円以上が、1100万円台より多いのは、1200万円以上が全て一つの階層にまとめられているからである。